

突然、話しかけられて、ぼくは振り返った。
そこには白いひげを蓄えた人の良さそうなおじさんが立っている。


2011年11月、ぼくはラスベガスにいて、カジノを楽しんでいた。
当時のぼくは、TOEICが550点から一気に700点を超えて、有頂天になっていた。
なぜカジノにいたのかというと、仕事だ。
1週間の出張期間中、最後の2日間はラスベガスに滞在していた。
ご存知かもしれないが、ラスベガスのホテルにはカジノが併設されていて、24時間遊び放題である。もっと言うと、空港の待合スペースにもスロット台が置いてあるほどだ。まさにギャンブルの街。
最終日は早朝5時の出発。ラスベガスと日本との時差は16時間。

ぼくはほとんどギャンブルはしないのだけど、このときばかりは「ラスベガスを楽しまなきゃ」という変な使命感から、遊ぶことに決めたのだった。
カジノではブラックジャックがおすすめ

出張前に、カジノのゲームについて入念に調べた。調べると、ブラックジャックが1番還元率が高いらしい。
還元率が高いということは、ディーラーの取り分が少なくて、参加者に配分される期待値が1番大きい。例えば、宝くじでは還元率は50%以下だ。
ブラックジャックだと、理想的なプレイをした場合の期待値は96%ほどになる。
すなわち負けるとしても平均すれば4%程度しか負けないわけだ。
お金が増えたタイミングでうまく止めることができるなら、ブラックジャックで勝てる可能性はかなり高いと踏んだ。
ちょっと話がそれてしまったが、結果的にぼくはブラックジャックで数万円のお金を増やすことができた。
現れたジョセフ
もともと無くなっても良いお金の上限は自分で決めていて、 50,000円としていた。
数万円のお金が増えたので大満足で、残りの時間はスロットで一発、大当たりを狙って1回1ドルのスロットを回していた。そのときだった。
カーネルサンダースのような人の良さそうな見た目のおじさんが話しかけてきた。

英語がわからないふりをすれば、その後突っ込まれる事はなかったのだろうが、中途半端に英語力に自信をつけたばかりのぼくは、真面目に答えてしまった。

次々と話しかけてくるおじさん。

などと言って次々とアドバイスをくれる。

と思いながらも、うまくかわすことができず、会話を続けるぼく。




言われるままに2人でポーカーの台に移動した。おじさんの言う通りにポーカーをする。しかし勝てない。どんどんお金が減る。
勝率は3割を切っていたように思う。
ぼくがその時持っていた現金(チップ) 300ドルほどは、すべてあっという間にカジノに吸い込まれていった。
なぜかキャッシング(やばい方向へ)


そう言っておじさんはぼくの手を引っ張ってカウンターに向かった。
生まれて初めて、クレジットカードのキャッシング機能を使った。いとも簡単に1,000ドルを手にした。
その後もいくつかの台を転々としたが、たまに勝つ事はあっても、次に大きく掛けて負けるということを、ひたすら繰り返した。
ポーカー自体は楽しくて、いろいろコツを教えてもらった..ような気がする…けどもう忘れてしまった。
3時間ほど経った後、残りは800ドル位になっていた。財布に入っていた300ドルと、キャッシングで下ろした。1000ドルを合わせて、500ドル近くを失ったことになる。
飛行機の時間がせまる


気づけば朝4時半。チェックアウトの時間まであと1時間。

片言の英語でおじさんに伝えた。

おじさんはひとりでエレベーターに乗ろうとした。
さすがにぼくも「これはやばい」と思って、

だが時間は無い。おじさんの提案はこうだ。


1度は言ったのだが、ここはアメリカ。
いつ銃が出てくるかもわからない。

結局、おじさんの提案に乗った。おじさんは颯爽とエレベーターに乗って消えていった。
そう、残りの現金800ドルを握りしめたまま……
あたりまえだけど……
急いで支度をして、 30分後エレベーターホールに戻ってみたが、おじさんが戻ってくる事はなかった……
放心状態のまま、14時間のフライトで日本に帰国することになった。(終)
安易に自分のお金を預けるのはやめましょう。
おわりに
今思えば、なんでそんな大金を下ろして、今まさに出会ったばかりのおじさんに、大金を預けてしまったのだろうか?
- 英語で会話している自分に酔いしれていた。
- 疲れと眠気がピークの状態で、冷静な判断ができなかった。
- 英会話学習の一環のつもりだった。
- 全てが新しい経験、自分の経験になると考えた。
- 人を疑うよりは信じたかった
高い高い英会話の授業料を払ったというお話でした。

おわりっ!
