
今となっては、何がイヤで食べられなかったのか、はっきりとは思い出せない。
もう25年以上も前の話だ。
当時6歳。小学1年生だったぼくは、給食で出されたレバーの唐揚げがどうしても食べられなかった。
モモ肉だかムネ肉だかわからないが、普通の唐揚げは黄色っぽい色をしている。
しかし、レバーの唐揚げは黒っぽい色をしている。そしてその黒い塊を、一つ口に入れて、噛むと・・・血のような味がするのだ。
どうしても食べられなかった。噛むと気持ち悪くなって、何度か吐きそうになった。

6歳のぼくは、心の中でそう強く思っていた。
だが、それを口に出す勇気はなかった。
当時の先生は、女の人だったが、とても厳しい先生だった。当時の出来事は、今でもトラウマのように心に刺さっている。
「全部食べなさい」
先生はそう言って、ぼくが給食を片付けるのを決して許してくれなかった。

ぼくは、無言のまま耐え続けた。
給食の後の休憩時間。みんな楽しそうに遊んでいる。
教室内の35人のうち、ぼくだけは給食の時間が続いていた。
仲の良い友達どうしで話したり、紙ヒコーキを飛ばしたりしているのを見ながら、ただひたすらレバーとにらめっこしている自分。
何人かが気になってぼくに話しかけてくれたのだが、うまく会話できないぼくは笑ってごまかした。

6歳のぼくは、「食べるまで片付けちゃダメ」という言葉を忠実に守った。
そして休憩時間が終わり、掃除の時間。
机と椅子を、一度教室の後ろに下げて、ほうきで掃いて、雑巾がけをする。
次々と後ろへ下げられていく机たち。
ぼくは座り続けた。
ぼくは座ったまま、一度後ろへ下げられて、みんなが掃除をするのをじっと見ていた。
孤独で泣きたい気持ちだったが、泣かなかった。
そして掃除が終わると、机と一緒に元の位置へ。
このとき初めて掃除をサボった。
そのまま帰りの会もやり過ごした。
結局、放課後まで耐え続けた。
なぜだか分からないが、この辺りから記憶があいまいになっている……
はっきりとは思い出せないけれど、
先生は、「もういい、片付けなさい」と言ったように思う。
そしてぼくは、「勝った、やりきった」と、心から満足感を覚えたのだ。
大人になった今では、好きではないものの、レバーも食べられるようになったし、当時のように血の味のようにマズいと感じることもない。
ただひとつ言えるのは、いまぼくの中にある、
「自分の意思を貫きたい」
「勝負には絶対負けたくない」
という考え方は、このときの体験が元になっているということだ。